architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』 | リノベーションスープ

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architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

クラフトの設計者・生田智。お客さまが「吹き抜けが欲しい」といえば大胆に天井を抜いてみせ、「大空間にしたい」といえばドラマティックな空間をつくり上げます。

一方で「過去にポジティブなひきこもりの時代があった」と話す生田。その時代に身につけた”建築と人のとらえ方”が、今の仕事に役立っているそうです。

建築家は、夢を両手いっぱいに抱えた人を喜ばせる仕事

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ー生田さんが建築に興味を持ったのはいつごろですか?

高校に入る前。『将来は人を喜ばせる仕事をしたい』と考えていたんです。そのとき、たまたま有名な建築家に会う機会がありました。若手建築家として活躍されていた方で、ちょうど今の僕と同じくらいの歳でしたね。

『医者もいいし、建築家もいいなと思う』と言うと、『そうだね。医者は病んでいる人を治してあげることができる。建築家は夢を両手いっぱいに抱えた人を、想像もつかないプランで喜ばせることができる。どちらも素晴らしい仕事だけど、お客さまの目的はまったく違うよね』と。それから『建築家っておもしろいかもしれないな』と思うようになったんです。

ー子どもの頃にそんな貴重な体験をしたんですね。

そうですね。その後は意識して街の建物を眺めるようになりました。ただし、本質的なものをとらえるようになったのは、社会に出て、お客さまを前に実務にあたるようになってからですね。

ポジティブな引きこもりの時代

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ーその後、大学で建築を学び、念願の職業についた。順風満帆のように思えますが。

そんなことはありません。幸い設計職につくことはできたけど、働いて2年ほどすると「思うような仕事ができていない」「期待に応えられない」という思いに捕われるようになりました。まだ未熟だったんですね。そこ仕事を辞めて、いわゆる”ポジティブな引きこもり”をすることにしました。

ー …。 詳しく聞かせていただけますか。

ネガティブなひきこもりもあるけれど、それとは違います。何もしていなかったわけではなく、毎日外に出て、建築を見てまわっていたからです。その中で『いいな』とか、『好きじゃないな』とか感じたことを、感じただけで終わりにしないで言葉にしました。『自分に何が足りなかったのか』をひたすら考えていましたね。

もちろんそれだけではなく、建築に関する本もたくさん読みました。時間はたっぷりとありましたから。両親が何も言わなかったのは、僕が前向きに何かをやってるのを見てたからかもしれない。ただ部屋にこもってゲームしてたら、きっと勘当されてたと思います。

この人は、何をいいと思うんだろう? を突き詰めて考える

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ーそこから何か変わりましたか?

建築の見方、街の見方、人の見方、世の中の見方が変わりました。物事について自分なりに、深く考えるようになったと思います。とくにクラフトでリノベーションの設計をはじめてからは、『このお客さまは何をいいと思うんだろう?』ということを突き詰めるようになりましたね。

アトリエ系の設計事務所で働いていた頃は、アトリエらしさを出すことが多かったんです。だけどリノベーションの場合、既存の家があり、お施主さまはそれに対してはっきりとした理想やこだわりを持っています。

だからお客さまの好みを深く理解して、『これはお客さまが好むだろう』というプランをつくるようにしています。自分の好みを優先することはまずありません。

建築とお客さまを、多面的にとらえることの重要性

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ー生田さんが手掛けたこちらの物件も、小さなお子さまを意識したプランとなっていますね。私もお邪魔しましたが、木の存在感がダイレクトに伝わってきて、伸びやかで。『ずっとここにいたい!』と思いました。

それはうれしい。こちらはメゾネットマンションなんですが、フロアや部屋で空間が分断されることなく、空間がおだやかにつながるように計画しています。奥さまはキッチンから子供部屋の様子や、地下の書斎にいるご主人さまの様子がわかる。とくにハイハイをはじめた子どもはあっちに行ったり、こっちに行ったりと目が話せませんよね。キッチンからは子どもの様子がわかるので、『安心して家事ができるようになった』と喜ばれました。

ポテンシャルを引き出すと同時に、デメリットを解消する

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ー音が響きにくい地下に音楽室をつくるなどメゾネットのメリットを活かした一方、上下階につながりを持たせることで、”空間が分断されやすい”というデメリットを解消していますね。

リノベーションは、『既存の建物のポテンシャルを引き出す』と同時に『デメリットを解消する』といった相反することを同時に考える必要があります。

物事を一面から見ていただけでは、お客さまの期待をこえるプランは出てきません。建築もお客さまも多面的にとらえるからこそ、本質をついたアイデアが生まれるんだと思います。

僕にたくさんの引き出しがなければ、お客さまを理解できない

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

ーリノベーションは、既存の建物や、お客さまのことを深く理解することなしに成功はありえないということですね。

もっと突き詰めると、”自分がお客様の気持ちをどこまでキャッチできるか”ということ。お客さまとの打合せでは、建物の構造やデザインの話をしていたと思ったら、いつの間にか奥さまの家事や収納、子育てについて語っていたり。話の振り幅がとっても大きいんです。

自分自身にたくさんの引き出しがなければお客さまを理解できないし、共感もできないと思いますね。

ー引き出しを増やすために努力していることはありますか?

プライベートでは建築を見てまわったり、本を読んだりし、見識を広げるように努力しています。建築書だけではなく、純文学なんかも読みますね。息子と遊ぶこともその1つ。子どもの興味や動きを見ていると、子育てしやすい間取りのアイデアがひらめきます。

architect interview / 生田 智『建築のとらえ方』

(取材後記)
生田のつくる住まいからは、お客さまがどのような好みをお持ちで、どのような暮らしを望んでいるかをはっきりと見てとれます。シンプルで大胆で、迷いのない空間構成。それは、”建築とは何か” ”人とは何か”を追求し続けることで生みだすことができるのだとわかりました。

『両手いっぱいに夢を抱えた人に喜んでほしい』。幼い頃に抱いた夢は、今度は大きな”責任”となって、大人になった生田の胸に宿っているのではないでしょうか。

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