クールにリノベーションされたカフェを巡り、リノベーションのアイデアを見つけていく企画。
〈リノベーションカフェ巡礼vol.1〉に続き、今回は二子玉川にある〈SOUL TREE(ソウルツリー)〉におジャマしました。
築40年の廃墟だった鉄工所を、オーナーの高橋さんが自らリノベーションしたカフェ。無骨さとクールさがありながらも、くつろげる空間となっていました。
築40年の廃墟だった鉄工所。息をのむインパクト
二子玉川駅から12分。思わぬところで〈SOUL TREE〉の看板があらわれます。うっかりすると見逃してしまいそうですが、看板の先にはかなり年季の入った工場が。一度見たら忘れられないインパクトです。
もともと鉄工所だったという建物。「出会ったときはただの廃墟だった」と話すのは、〈SOUL TREE〉のオーナー・高橋さん。
ものすごくボロボロだったけれど、見た瞬間に『あ、これだ!』と思ったそうです。
ブルーだった外壁のトタンは、ほとんどが錆びて変色。後から取り付けたという巨大なコンテナ扉とともに、強い存在感を放っています。
錆びて変色した鉄板のドアを開けると、期待どおりの大空間が広がっています。
「友人の大工さんと一緒に半年かけてリノベーションを完成させた」という高橋さん。ラフプランは高橋さんが描き、あとは現場で決めていったそうです。
「設計士じゃないから、階段の高さなんて検討もつかないんだよね。だから、現場で板を置いてもらって上り下りしながら『もうちょっと低くしてほしい』なんて決めていった。大工さんとはこんなやりとりをひたすら繰り返してたかな」
無骨さや味わいを残しながら、心地のよさを求めて
店内は既存のよさを活かしてリノベーションされています。
土だった床にはコンクリートを打ち、荒々しい仕上がりに。かなりの凹凸があります。
表情がゆたかな壁は、白い漆喰に琉球漆喰と赤土を重ね、ムラ感が出るように左官で仕上げたそうです。
「エイジングしたように見せたかったわけじゃないんだけど、味のある壁をイメージしていた」
『この空間に合うのは白じゃない』と判断した高橋さんは、オリジナルのアイデアで奥行きのある壁をつくりました。さまざまな色が入り交じり、奥行きを生み出す漆喰の壁。心地よい趣をプラスしています。
工場をリノベーションしたカフェ・二子玉川 SOUL TREE(ソウルツリー)の店内
既存のブレース(筋交い)はあえて露出させ、鉄工所だったときの名残を感じられるように。
高い天井を見上げると、太い鉄骨梁があります。経年で茶色く錆びていて、大迫力。この大きな梁によって、柱のない大空間が可能になっています。
今回のリノベーションでは、床・壁・天井の内装をすべて新しくしました。また、訪れた人が快適に過ごせるよう、壁と天井には断熱材を入れたそうです。
照明は、ドイツの工場で使われていたというアンティーク。インダストリアルな空間に、申し分ないくらいフィットしていました。
そんなクールな空間で、ちょっと目をひくのがレトロな格子の窓。今回のリノベーションで新設したそうです。
ガラスは、はるばるアメリカから取り寄せたのだとか。小さな気泡が無数に入り、やさしく、あたたかい雰囲気がただよいます。
エントランスの木はタイルのテーブルに映り込み、とても涼しげな印象です。
テーブルは友人の手づくり。そのほかのテーブルやベンチも、ざっくりとしたアメリカの足場材を使ってみんなでつくったそうです。
「こっちは足場材をペンキ屋さんにもらったんだよ」と高橋さんが指差したのは、壁面の本棚。
足場材はペンキ屋さんに、鉄板は解体現場でゆずってもらった
よく見ると、赤・青・黄・緑などのペンキが飛び散っています。聞くと、三重県のペンキ屋さんに新しい足場を渡して「交換してください」とお願いしたそうです。
え、そんなことってできちゃうんですか…と驚いていると、
「いやいや、それだけじゃないよ。あの鉄の大きな板だって解体現場で譲ってもらった。コンテナの扉もそうだよ。そのために、解体作業を手伝ったりしたんだけどね」
デザインオフィスとなっているロフトも、解体現場から鉄骨の床組を譲り受け、こちらで組み立てたそうです。
全体的に無骨さがただよっているのに冷たさを感じないのは、素材からたくさんのぬくもりが伝わってくるからです。
カフェと工房と家が一緒になった場所をつくりたかった
ちなみに、高橋さんの本業はグラフィックデザイナーです。
「デザイナーさんが、どうしてカフェをしようと思ったんですか」とたずねると、「カフェと工房と家が一緒になった場所をつくりたかったから」という答え。
デザインの仕事をし、ときに友達とお酒を飲みながら語り合い、気が向いたら革製品などものづくりをたのしむという高橋さん。暮らしと仕事を分けずに暮らせたら…という理想から生まれた空間が〈SOUL TREE〉です。
1Fはカフェバーと工房、 2Fはデザインオフィスと高橋さんの住居となっています。
20歳のころ大学を中退し、仲間とバーをスタート。その後出版社を立ち上げ、同時にグラフィックデザインを勉強。「趣味を仕事にっていうのはむずかしいけれど、『せめて好きなことを仕事にできたら』と思った。そのぶんリスクはあるけどね」と笑います。
仕事と遊びが融合した空間をつくるにあたって、問題となったのは物件探し。はじめは中古のビルを探していましたが、なかなかイメージ通りの物件に出会えず、3年も経過。そんなとき不動産屋さんに紹介されたのが、この鉄工所でした。
物件探しは恋人との出会いのようなものだと思います。「こんなコがいいな」なんて思っていたらなかなか出会えず、「ま、いいコがいれば」と思っていたらチャンスが訪れたりする。そういう意味でこの物件は、「タイプじゃないけど、ものすごくひかれる!」という衝撃的なものだったようです。
「店をリノベーションするとき、沖縄や三重、北海道の仲間がかけつけてくれた。少なくとも10人以上の仲間がかかわってくれたかな。みんながサポートしてくれなかったら、こんなにおもしろくはなかったし、満足できる空間にならなかった」とふり返る高橋さん。「絶対に1人じゃできなかった」と、たびたび繰り返していたのが印象的でした。
こうして完成した〈SOUL TREE〉。どこにもない空気感に魅せられて、ものづくりやたのしいことが大好きな人々が集まってきます。
まとめ
リノベーションをするときに、まずは「こんな暮らしがしたいな」なんてイメージしますよね。たとえば、趣味の自転車をもっとたのしみたい、料理がたのしくなるように、子供が遊べるように…などです。
高橋さんは「仕事と趣味と仲間、ぜんぶ一緒にしたい」という夢を、ご自身のアイデアと手で叶えました。理想のライフスタイルから理想の暮らしをイメージし、リノベーションを成功させた例として〈SOUL TREE〉はとてもよいお手本になるのではないでしょうか。
そういえば取材中に、1人でふらっと来て本を読みながらお酒やコーヒーを飲み、さらりと帰っていく。そんな人たちを見かけました。「よし、カフェにいくぞ」とはりきるのではなく、「なんとなく来ちゃった」という感じ。〈SOUL TREE〉は、みんなの暮らしの延長線上にあるお店なのだと思いました。
築40年の鉄工所を、独自のセンスでリノベーションしたカフェ。大人がワクワクしてしまう素敵な空間。わざわざ足を運びたくなるような、不思議な心地よさがある。
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