「お、これぞモダニズム建築って感じですね!」と言ってはみたものの、実のところモダニズム建築が何なのかはよくわらからない…という方、意外と多いようです。隣のかわいい女の子に「ふうん。モダニズム建築って何なの?」と聞かれたとき、「うん、昭和の建築でね…」とそれまでの勢いはどこへやら。ほんわりと雰囲気でモダニズム建築をとらえてしまっている方、ここであらためてモダニズム建築について学んでみませんか。
日本の最高傑作として名高い東京都内のおすすめモダニズム建築ととともに、わかりやすくご紹介します。
モダニズム建築の歴史をさらっとご紹介
モダニズム建築は、鉄とガラス、コンクリートなどの工業製品を使って合理的精神のもとでつくられています。ゴシックやバロック様式の装飾を一蹴し、新しい建築をつくろうという考え方です。
その装飾のなさから「白い箱」「豆腐」と形容されることも。ル・コルビュジエのサヴォア邸(1931年竣工)や、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・パビリオン(1929年竣工)が代表とされています。ちなみに、日本では木造のモダニズム建築もあります。
19世紀の産業革命以降、鉄筋コンクリート造や鉄骨造という構造が可能になり、またガラスが大量生産されるようになったことから、これまでの石や煉瓦づくりのしがらみから開放されました。
モダニズム建築の推進に大きな役割をはたしたのが、ドイツの芸術学校・バウハウス(1919年設立)です。その後、1928年にCIAM(近代建築国際会議)が開催され、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、グロピウス、などの建築家24名が参加し、建築の将来について協議しました。日本からは前川國男が参加しています。こうしていわゆるモダニズム建築が急速に普及していきました。
モダニズム建築1_国立代々木競技場(代々木体育館)
1964年の東京オリンピックのサブ会場として建設された国立代々木競技場は、モダニズム建築で避けては通れません。
青い空を背景に反り返るようなダイナミックな屋根。日本モダニズム建築の巨匠・丹下健三の代表的な作品です。第一体育館と第ニ体育館、付属棟で構成されており、最も特徴的なのは”釣り屋根構造”が用いられていること。第一体育館は2本、第二体育館は1本の柱を設け、それぞれその柱から大きな屋根を吊り下げられています。こうして内部に柱のない大空間をつくることができたのだとか。
ちなみに、戦後20年ほど経っていましたが、建設予定地にはアメリカ軍の施設があり、着工はオリンピックの1年前。後半は昼夜問わずの工事で39日前にやっと完成したのだそうです。そう考えると白紙にもどった新国立競技場の建設はまだまだ余裕?
竣工:1964年
設計:丹下健三
所在地:東京都渋谷区
いまでも現役活躍中の国立代々木競技場。吊り屋根構造の第一体育館、すり鉢状の第二体育館、どちらも美しくダイナミック。現在もスポーツやコンサートに使われています。
モダニズム建築2_東京カテドラル 聖マリア大聖堂
こちらもモダニズム建築では避けて通れない丹下作品です。当時前川國男、谷口吉郎、丹下健三の日本を代表する建築家3名を指名したコンペが行われ、国内の建築家とドイツの司祭、教会建築家が審査。そのなかで丹下建三のプランがダントツで優れていたそうです。
外壁はステンレス張り、空に向かって背伸びするようなシルエットは、国立代々木球技場にも通じるものを感じさせます。一般的な教会のように正面からまっすぐと入るのではなく、まず奥へ進み、そこからぐるぐると回りながら階段を上がって、聖堂に向かうという動線。
こちらは神社・仏閣に見られるように、鳥居から参道を歩き、期待を高めながら本堂に辿り着くと言う日本の伝統的な手法です。
中に入るとコンクリートの壁が傾斜しながら上部へ伸び、頂点で十字架のトップライトをつくります。最大天井高40mの空間に注ぐ幻想的な光が、祈り人を聖地に導くようです。
竣工:1964年
設計:丹下健三
所在地:東京都文京区
丹下健三の最高傑作として名高い、東京カテドラル 聖マリア大聖堂。大空にメタリックに輝く姿は息を飲むほど美しく、荘厳です。ミサには誰でも参加することができるので、内部も見学してみてはいかがでしょう。
モダニズム建築3_国立西洋美術館
コルビュジエが夢見た「無限成長美術館」。
コルビュジエは近代建築の五原則として、ピロティー・屋上庭園・自由な平面・自由な立面・連続水平窓を唱えています。コルビュジエが設計した国立西洋美術館も、外壁に小さな石が貼られた重厚な建物をピロティー(柱の並んだ吹きさらしの空間)が支えているという構造です。それに加え、内部はコルビュジエの構想「無限成長美術館」による大胆かつ自由な設計です。
正面のメインロビーは2層の吹き抜け空間。回廊状の展示室は、スロープでぐるぐると回遊しつつ、作品を眺めながら2階へと進むことができます。展示スペースがらせん状に伸びているため、もし仮に展示作品が増えても増築してスペースを広げることができます。
設計はコルビュジエですが、実施設計・監理はコルビュジエの弟子の前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らが行いました。後に前川國男が国立西洋美術館の新館を設計しています。歴史的建造物として2007年には重要文化財に指定されました。
竣工:1959年
設計:ル・コルビュジエ
所在地:東京都台東区
正面のメインロビーは2層の吹き抜け空間。回廊状の展示室は、スロープでぐるぐると回遊しつつ、作品を眺めながら2階へと進むことができます。
まとめ
いかがでしょう。モダニズム建築とは、ただの流行ではなく世界の名だたる建築家たちが「これまでなかった建築をつくりたい」という欲求から生まれた様式、思想だということがわかります。
19世紀後半から始まったこのモダニズム建築運動ですが、20世紀中頃にはこの四角く装飾のない、コンクリートの建物がスタンダードになり、「無味乾燥すぎない? やっぱり装飾のある建物もいいかもね」ということで、この後”ポストモダン建築”へと続くわけです。
建物はどんどん進化し、だからこそおもしろい。この夏休み、ひとまず都内のモダニズム建築を巡ってみてはいかがでしょう。
〈都内で巡る、ポストモダン建築〉の記事もご拝読ください。