リノベーションや不動産購入が、即効性のある節税対策になるということは、前回の「〈1〉リノベーションが節税に?」「〈2〉親が60歳になったら…」の記事からお分かりいただけた思います。しかし
「どんな不動産を買えばいいの?」「中古でもいいのか」という疑問がないわけでもありません。
今回は横須賀不動産鑑定事務所の林さんと、税理士法人横須賀・久保田の久保田さんに、〈不動産の選び方〉と〈注意点〉をうかがいました。
バラ色の収支計画書にまどわされないこと
「相続税対策として」「年金の変わりに」と不動産の購入を考える方は少なくないようです。しかし「ハウスメーカーがつくった収支計画を鵜呑みにするのは危険」と久保田さんは警鐘を鳴らします。
「最初の10年くらいは計画通りにいくかもしれませんが、30年後にボロボロになったとき、新築時と同じ利回りなんてことはありえません。また古くなるほどメンテナンス費用がかかってきます。家賃保証といっても2年毎に改定があったり。まずは疑ってかかる事が大切ですね」
バラ色の収支計画は現実性のある数字でなければ、”絵に描いた餅”でしかありません。うまい話をそのまま受け入れるのではなく、不動産の相場観を熟知している第三者に相談しましょう。
不動産を買っただけではうまくいかない時代に
では「不動産を買えば将来安泰」というのは、幻想論でしかないのでしょうか。
自社でも収益物件を運用する、横須賀不動産鑑定事務所の林さんによると
「ここ1、2年は賃貸物件が飽和状態。マイナス金利でお金を借りやすくなったことと、2015年の相続税の税制改正で『現金を不動産に変えたほうが得だ』と、みんなが賃貸物件に手を出したことが起因しているのではないでしょうか。しかし空室率が高く、損益分岐点を下回っている物件もあります。維持管理費を考えると、空室率が3割以上を超えている物件は厳しい状態だと言えますね。”不動産を買えばいい”という時代ではなくなってきました」
そこで大切になってくるのは、差別化です。
エントランスが清潔だったり、キッチンが広くてモダンだったり、最新の設備が入っていたり。とてもシンプルなことですが、長く所有していると客観的に見れなくなります。定期的に見直すことが大切です。古い賃貸物件が一棟リノベーションで人気物件に生まれ変わった例もあります。
ニーズをしっかりと把握し、ターゲットを明確にする。こだわりあるプランやデザイン、またサプライズやラグジュアリー感で借り手の心をキャッチすることで、競争力のある物件になるのです。
管理ができないなら、不動産を買うべきではない
また収益物件を買う時は自分が住みたいと思い、定期的に見に行ける場所にがお勧めなのだとか。たしかに自分が住みたいと思わない家は、他の人も住みたいと思いません。では”定期的に見に行ける”というのは…?
「ご自身で管理をできれば一番ですが、時間がなくてそうもいかない方もいるでしょう。そこで管理会社に任せたとしても、ご自身や親族が定期的に訪れて管理状態をチェックし、気がついたことを管理会社に伝えるようにする。そうすると管理会社も『手を抜けないな』としっかりやってくれます。オーナーが管理に目を行き届かせることが、住み手に長く借りてもらうための秘訣です」と林さん。
たしかに、クラフトで〈一棟リノベーション〉したお客さまの中には、オーナーであるご自身が掃除をし、花壇に好きな花を植え、管理をたのしみながら高い入居率をキープしている方がいます。
しっかりと管理ができないなら、買うべきでない。ずさんな管理は物件の快適性を損ないます。退去者が増えて賃料が減るのに、メンテナンス費用がかさむばかり。こうなるとバラ色どころか、負の遺産でしかありませんね。
競争力の弱い物件の傾向とは?
林さんによると、競争力の弱い物件には”ある傾向”があるとか。
「ある日を境に、ばたばたと借り手が出て行ってしまいます。焦っているうちに家賃収入が激減→お金がなくてメンテナンスができない→さらに建物の状態が悪化→退去が増える、といった悪循環に陥ってしまう。
バラ色の計画とはほど遠いですね。
そうならないためにも、収益物件をお持ちの方は、早めにリノベーションを計画したほうがよいでしょう。現金がある人は相続税対策にもなりますから、そのメリットは大きなものになるはずです。それにお子さまも、キレイな建物を相続した方がうれしいですからね」(林さん)
まとめ
「人気エリアの不動産を買ったから」「今は満室だから」と、安住していられる時代ではなくなってきました。10~20年ごとの大規模なリノベーション、定期的なメンテナンス。これらを行って初めて、安定した賃料と満室状態をキープできるのです。
また「税金のことは自分でも勉強しておくことが大切」と久保田さん。「国は優遇税制のことを個別には教えてくれません。目の前にせっかくある優遇を知らず、通り過ぎてしまうこともあります。日頃から税理士のブログを見たり、国税庁のHPを見たりして、情報を集めておくとよいかもしれませんね」
節税対策の方法は、それぞれのご家庭によって異なります。日頃から税制や不動産マーケットにアンテナを立て、税理士や不動産鑑定士に相談しながら、自分にとってベストな計画を探していく。「何よりも早めに対策することが大切です」と林さん、久保田さんは何度も繰り返しました。
※バックナンバー※
不動産で相続税対策〈1〉リノベーションが節税対策に?
不動産で相続税対策〈2〉親が60歳になったら…
「税理士法人横須賀・久保田」と「横須賀不動産鑑定事務所」から成る横須賀グループ。税務から不動産まで、総合的なコンサルティングを提供しています。
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