「オフィスはなくなってしまうの?」
「コロナが収束したら、また出社になるの?」
コロナ禍でテレワークを余儀なくされ、今後の働き方に不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
これからは「働き方」と「働く場所」のスタイルが変わっていく。そう主張するのは、コクヨ株式会社のファニチャー事業本部・松本さんと、マーケティング本部・谷治さん。新しいテレワーク・オフィスワークのあり方を提唱するお二人に、コクヨ東京品川オフィスでお話をうかがいました。
Working From Home「住まい」の中で「働く」の割合が大きく
ーコロナウイルスによって、テレワークという働き方の選択肢が増えました。そうした中で、コクヨさんが提唱する〈Working From Home〉が注目されているそうですね。
松本さん:実はずっと前から「家で働く・学ぶことのよさ」に着目してきました。数年前からコワーキングスペースの普及や、オフィスのリビング化は広がっていましたが、谷治とは「家でもっと快適に働けるようにしたいね」と。そんな時にコロナが発生して、「時間をかけてゆっくり進むだろうな」と思っていたテレワークが急速に進んでいきました。
ーもともとお考えだったことが、外的要因によってスピードアップしたのですね。コクヨさんは、新築マンションにワークスペースをつくるという企画もなさっているそうですね。松本さんは、東急不動産さんとのプロジェクトの責任者だとか。
松本さん:ええ。東急不動産のご担当の方と「この状況を打開したいね」という話し合いからスタートしました。コクヨとしても、ライフスタイル側から提案するチャンスでした。
ーどのようなワークスペースですか?
購入者さまから「独立したスペースがほしい」というご希望があれば、壁面収納内にコックピッド型のワークスペースを設置する。「もっとゆるい感じで」ということなら、リラックスしながら働けるデイベッド型のワークスペースを。ただオフィス家具を置くだけでもいいんです。枠にとらわれず、「生活の中にゆるやかにワークスペースをつくる」というのが〈Working From Home〉のコアな考えです。
いずれにしても今後は「住まい」の中で「働く」の割合が大きくなるでしょう。私たちは「オフィスづくりのプロ」として、働く環境を提供していくつもりです。
コクヨは「お客さまにこうなってほしいファースト」の会社
ーコクヨさんは115年もの歴史があり、オフィス家具でも60年以上の実績をお持ちだからできることですね。でも、個人へのアプローチはなかなかむずかしいのでは?
谷治さん:じつは、コロナ禍で大きな変化がありました。オフィスチェアーを一般の方にご購入いただけることが増えてきたんです。オフィス家具中心にやってきたコクヨとして、個人ニーズが伸びている事実は無視できません。コクヨがオフィス家具で60年やってきた実績を、今度はホームオフィスで活かすときだと思っています。コクヨはお客さまに「こうなってほしいファースト」の会社なんです。
ーこうなってほしいファースト…ですか?
谷治さん:たとえば〈しゅくだいやる気ペン〉は、「子どもたちに宿題をやってほしい」という想いから生まれました。またお座りいただいていいる〈FABRE/ファブレ〉は、「オフィスでも、リビングにいるような心地よさで働いてほしい」という想いでつくられています。
ーこちらはオフィスチェアーだったのですね! ファブリックの色と風合いがやさしくてシルエットがすっきりとしていて、リビングダイニングにもフィットしそう。なによりこうして長時間座っているのに、ぜんぜん疲れません… 。
谷治さん:オフィスチェアーは、ホームチェアーとは違って、長時間同じ姿勢で座ることを前提に作られています。だからずっと座っていても、心地よさをキープできるんです。
耐久性の高さもオフィス家具のメリットです。品質に対するお客さまの評価も高く、「コクヨ製品は10年以上使っても壊れない」などの声をいただきます。
たとえばデスクは、書類を取るときに隅に負荷をかけても反対側が浮かない。また会議中に隣の人のタイピングで机が揺れると気になりますよね? そういった振動も伝わりづらい。コクヨの家具はさまざまなワークシーンを視野に入れて作られています。そういう頑丈さも注目されているのではないでしょうか。
松本さん:あちらのラウンジに置いている〈METTI/メッティ〉も、オフィス用のソファですよ。一見リビングソファみたいですが、ワークすることを想定しているのでシートはちょっと固めで、沈み込みすぎない。仕事のときはクッションの背もたれを立ち上げてロック。リラックスしたいときは倒す。シーンに応じてフレキシブルに使えるソファなんです。
コストやスペースの問題でワークスペースを作れない場合でも、こうした家具を置くだけで働く環境が生まれます。
ー本格的な書斎をつくらなくても、たとえば寝室の一角にオフィス家具を置くだけでワークスペースになるんですね。
谷治さん:〈FABRE〉もうそうですが、コクヨのオフィス家具は天板・脚の素材やファブリックのカラーバリエーションが多く、ご自宅のインテリアに合わせてセレクトできます。本来オフィス家具ではあまり見ないカラーも多いんですよ。
ーおっしゃるとおり、やさしい雰囲気で、ナチュラルインテリアや北欧インテリアにも合いそうですね。
谷治さん:今後は海外のファブリックも積極的に取り扱っていくつもりです。ハイブランドの家具は、自宅のインテリアに合わせて生地や素材ををセレクトできますよね。オフィス家具を自宅に置くことを考えると、そういうふうにバリエーションを増やしていかなければいけないな、と思っています。
自社ビルを大リニューアル。まずは自分たちが新しい働き方を実践
ーテレワークをする方が増えて、これからオフィスはどうなっていくのでしょうか?
松本さん:私たちはワークプレイスを4つに分けて捉えています。
1st place / ホーム
2nd place / オフィス
3nd place / コワーキングスペース、カフェ
4th place / オンライン
これからは2nd place(オフィス) が減っていく可能性も考えられます。実際、今のコクヨの出社率は約3割です(2020年11月取材時)。だから私たちコクヨは「アフターコロナの2nd place はどうあるべきか」を追求することにしたんです。
ー今回オフィスを大きくリニューアルされたのは、そのためですか?
谷治さん:はい。お客さまより先に、まずは自分たちが新しい働き方を実践しなければいけない。
4-9Fまではライブオフィスになっていて、コクヨ社員が働いている様子をご覧いただけます。そこから「働く」のアイデアを見つけてほしいなと。
また、全社員が使用できるラウンジの横には、ガラス張りの壁の向こうで役員チームが働いている。ラウンジで気軽に社員と雑談できるようにしました。ほかにも吹き抜け階段を設けるなど、「みんなにどう働いてほしいか」という視点でオフィスをリニューアルしています。
ワーケーションを実現できる「場所」を提供していく
ー冒頭でお話くださった〈Working From Home〉だけでなく、これからはオフィスの考え方と場所も大きく変わっていくのですね。
松本さん:ええ。それに加えて3nd place(コワーキングスペース)はもっと増えていくはずです。地方やマンションの共用部など多様な形で。デベロッパーさんなどと協力しながら、さまざまな軸で対応していかなければならないと思っています。
谷治さん:たとえばコクヨにも副業をしているメンバーがいますが、今後は増えていくと思います。メンバー型(人に仕事を割り当てる)からジョブ型(仕事に対して人を集める)に移行していく、そういう人たちがどういうところで働くか。ワーケーションへのニーズが加速したとき、その場所を提供するのがコクヨの仕事のひとつです。
松本さん:私もそう思います。会社の枠を超えてプロジェクト型でやっていくほうが新しいものが生まれて行くと思う。「コロナだから」と固まっていないで「新しいことにチャレンジしたい!」いう方に、全国のコクヨのメンバーを通じて刺激を差し上げられるとうれしいですね。
インタビュー後記
スピード感あるリズムで率直にお話くださった松本さんと、じっくりと丁寧に言葉を紡ぎ出す谷治さん。タイプの違うお二人は、とても仲が良さそう。
「お互いコクヨに20年以上勤めていて、ほとんど同期なんですよ」と谷治さん。「松本は新入社員のことからこんな感じ。自分を貫いてましたね」と、まるで手のかかる弟を見守るようなやさしい笑顔を見せてくれました。その横でいたずらっぽく笑う松本さんは、インタビュー時とはまた違った印象。
長年同じオフィスで働いてきたからこそ、新プロジェクトもあうんの呼吸で進めてきたお二人。たとえテレワークが定着しても、仲間と信頼を育むオフィスはあり続けてほしいなと思います。もちろんこれまでと違った形で。
必然的に新しい場所が求められたとき、その一歩先にあるものを差し出してくれるコクヨさん。期待以上のプランでお客さまに喜ばれている、クラフトのリノベーションとの共通点を見つけることができました。
創業1905年、オフィス家具・文具の老舗企業。多様化する働き方に合わせて、新たな形のオフィスやホームオフィス、コワーキングスペースを提案しています。