実家の所有する一棟ビル・賃貸マンションがボロボロなのに、「何も対策をしていない」。
という方は多いようです。ご両親いわく「できるだけ現金を貯めて、相続税に備えておきたい」と。しかし、そんなボロボロのビルを相続した子どもたちに、はたしてメリットはあるのでしょうか。
空室率は目立ち、メンテナンス費用はふくらみ、固定資産税はかかる。全く価値がないか、もしくは負の遺産でしかないケースもあるとか。
そこで今回は、リノベーションによって〈家賃収入アップ〉と〈相続税対策〉に成功したSさんの例をご紹介します。
ボロボロの建物を相続して、誰が喜ぶのか
Sさん(50歳/会社員)には、ずっと気になっていることがありました。父親が所有する築40年の賃貸マンション一棟のことです。
外壁にはクラックがあるし、エントランスもボロボロ、内装の設備も古く、当然のことながらここ数年、空室が目立っています。正直、Sさん自身すら借りたいと思いません。80歳になる父親は、何の対策もせずに放置。わけを聞いてみると
「家賃収入が増えても所得税がかかるだけだ。しかも、お前に相続する時に相続税がかかるじゃないか。できるだけ現金を貯めておきたいんだよ」と。
…沈黙。
Sさんは、身震いします。このボロボロの建物を抱えて途方に暮れている姿をイメージして。
「何か方法がないか」と考え、不動産鑑定事務所のドアをノックすることにしました。
相続する人が一番うれしいのは?
状況をひととおり話し終えると、横須賀不動産鑑定の林さんは朗らかな笑顔でこう言いました。
「なるほど、よくあることです。競争率の低いビルやアパート・マンションを相続するご家族は、極めて高いリスクにさらされます。お父さまは『現金を貯めれば、相続税の納税が助かる』と思っていらっしゃるのですね。
しかし、お父さまの亡き後、Sさんは多額の相続税を納税し、その残りでいずれは建物の修繕をしなければなりません。”定期的な修繕費用を削って利益を上げてきた”ということであれば、なおさら多額の費用がかかってくるでしょうね」
「…では、どうすればよいのでしょうか」。Sさんは思わず身を乗り出します。
林さんが教えてくれた対策は、ごくごくシンプルな方法。しかしメリットは予想以上のものでした。
リノベで家賃収入がアップしても、所得税・相続税は減る
「まずはリノベーションし、収益を安定させましょう」と林さん。
つまり、
〈1〉マンション一棟をリノベーションする→満室になる→家賃収益が増える
という、とてもわかりやすい構図を教えてくれました。しかし、リノベーションによるメリットはこれだけではありません。
〈2〉リノベーションで現金を使う→評価上の所有財産が減る→相続税が下がる
リノベーションにより新築のように生まれ変わったマンションは入居者が増え、家賃収益は増加。資産価値が高まったのに、固定資産税評価や相続税評価は据え置きです。なぜなら、建物がボロボロでもピカピカでも、建物の評価は一定だからです。
リノベーションで使った金額は、家賃収益から少しずつ回収すればよいのです。
本当のマーケットプライスと、公的な評価は違う?
「リノベーションしても相続税評価額は変わらないけれど、実際の物件の価値(=マーケットプライス)は上がります。本当のマーケットプライスと、公的な評価の間には大きな差があるんです」
林さんによると、年配のオーナーは建物のメンテナンスにお金をかけず、貯蓄に回す人が多いそうです。『現金があれば安心』という気持ちはわからないでもないですね。しかし相続税対策をしっかりとやるなら、建物をきちんとメンテナンス・リノベーションし、マーケットプライスを上げたほうがよい。そうすることで、所得税・相続税・相続後の実質資産価値、全てにおいてお得な状態にもっていくことができるそうです。
林さんのお話はとてもシンプルで単純明快ながら、深く納得できるところがありました。Sさんはさっそくお父さまに話し、相続税対策に踏み切ったとか。
まとめ
その後、Sさんが窓口となり、ご実家のマンション一棟を大規模リノベーションすることになりました。ターゲットをしっかりと設定し、プランとデザインにこだわった結果、即満室に。もちろん家賃収入もアップしています。
しかし、Sさんが何よりもうれしかったのは、「いい物件を相続できる」という誇らしさのほう。父親から相続したこのビルを、数十年後、自分の子どもへ引き継いでいく。それがはっきりとイメージできました。
古い不動産を相続する予定がある方は、長期的な視野での相続税対策が必要です。ご両親が高齢ならなおさら、子が指揮をとり、損をしないように計画しましょう。
ひき続き、〈不動産で相続税対策〈2〉親が60歳になったら…〉 の記事もご覧ください。
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