解体工事というと、ダイナミックに建物を壊していくイメージがありますね。でもリノベーションの解体工事は真逆。既存を活かすため、大胆さよりも繊細さが求められます。
今回お話をうかがったのは、解体屋の親方・塙(はなわ)さん。「壊した後がきれい」「図面をしっかりと読んでくれる」と、クラフトの現場監督から絶大な信頼を得ています。
大きな音が出る機械は、できるだけ使わない
現場に行ってみると、拍子抜けするほど音がしません。解体屋さんは、もっとダイナミックに壊す様子をイメージしていました。
「ははは。マンションの住民の方の迷惑になるから大きな音が出る機械は使いません。とくに今回は既存を残すところが多いから手作業が中心ですね。本当に気を遣います。全部壊すほうがラクですよ」(塙さん)
この日は5人の職人さんが入っていましたが、手作業で巾木を外したり、壁を壊したり、トイレを撤去したり。ビスや部品を一つひとつ外しているので”解体している”というよりも“速やかに撤去している”といった印象を受けました。
黙って黙々と、自分の仕事をひたすらこなす
5人それぞれが黙々と自分の仕事をこなし、現場の空気はピンと張りつめています。ときどき塙さんが自身の作業の合間に、他の職人さんの仕事をチェックする。必要なことを一言二言伝えると、塙さんもすぐに自分の持ち場に戻っていきます。ムダな会話は一切ありません。クールすぎるほど。
普段はやさしい感じのする塙さんですが、その仕事ぶりを5分も見ていれば、仕事にかなり厳しい人なのだということが誰でもわかるはずです。
ちなみに、この日は30度近い夏日。それなのに窓はすべて閉め切ったままでした。
「マンションでは、騒音やホコリがクレームにならないように窓を閉めて作業します。だから職人たちは防塵マスクをしているし、休憩のたびに着替えていますね。リノベーションの現場に一番最初に入るのは、解体屋です。ウチがご近所さんからクレームを受けると、その後に入る全ての業者がやりづらくなりますから」
図面をしっかりと読み込んで、残す部分と壊す部分を把握。ときにはメジャーで測りながら、必要な部分だけを撤去して行きます。残す部分にキズがつかいないように、養生はしっかりと。
床やドア枠は、ぴしっと隙間なく養生されていました。職人さんの手つきはまるで美術品を梱包するようで、ため息がでるほどムダがなく、丁寧です。
「すごく丁寧ですね」と言うと「いえ、普通ですよ」と、職人さんらしい返事が返ってきました。
素早くコンパクトに解体し、スムーズに搬出する
撤去した部材は、まとめて整然と並べられていました。これらは決して再利用するわけではありません。
「荒く壊すと、散らかって片付けが大変なんですよ。片付けながら壊すほうが、解体~搬出まで一番スムーズなんです」
塙さんが経営する解体屋さんは、廃棄物の処理も行っています。そのため、”コンパクトに解体し、スムーズに搬出すること”を目的として、全体の工程を考えているそうです。解体~搬出~廃棄という一連の作業を終えて、やっと1つの仕事が終わります。
そうしていると、そろそろ休憩時間に。しかし塙さんたちは、手を休めようとはしません。途中、塙さんが職人さんにお茶を渡したと思うと、すぐに作業に戻っていきました。
「こまめに水分補給しながら、自分のタイミングで休憩することにしています」
集中している仕事の流れを止めないための、暗黙のルールなようです。
壊すのではなく、きれいに取り外していく
解体屋さんになって25年、その前は営業や設備の仕事に携わってたという塙さん。独学で解体を学び、仲間と会社をスタートさせて、少しづつ。塙さんにしかできない解体のやり方を構築していきました。誰にも教わることもなく、時に失敗を繰り返しながら。
既存を傷つけない、他の住民に迷惑をかけない。
壊すのではなく、きれいに取り外していく。
その姿勢はストイックと表現してもいいくらい厳格なもので、見ている私はただただ圧倒されるばかりでした。
*職人さんシリーズバックナンバー*
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