「2年前に二世帯住宅にしたけど、失敗だったと思うんです」と話すA子さん(30代・会社員)。
介護問題、都心の住宅の高騰、相続税の改正。こうした問題から、いま二世帯住宅が増えています。しかしA子さんのように「後悔している」という声がないわけではありません。
何が失敗だったのか。
どうすればよかったのか。
そもそも、はじめから同居は無理だったのか。
A子さんの失敗談をもとに、たのしく暮らせる二世帯住宅を考えてみました。
二世帯住宅の失敗の原因は、”共有部分”にあり
〈二世帯住宅の失敗1〉玄関と浴室が共有
二世帯住宅には3つあります。
〈完全分離型〉玄関からすべて別々。同居というより、お隣さん同士のような関係
〈部分分離型〉玄関のみ、もしくは玄関と水まわりなど、部分的に共有。一日一回は顔を合わせる
〈完全同居型〉寝室以外は全て共有。いつも一緒に過ごす大家族
A子さんが暮らす二世帯住宅は〈部分分離型〉。玄関とお風呂は共有です。「これが二世帯リフォームの失敗のもと」と話します。
最初はお風呂も別々の予定だったんですよ。でもお風呂をつくると部屋が狭くなるし、コストもかかるし。『まあ共働きだし、入浴の時間帯も違うし』なんて主人と言ってたんですけどね」と、ため息まじりに話してくれました。
帰宅後ゴハンをつくり、洗濯をし、ドラマを見て一息つくと11時過ぎ。もう義両親は寝ている時間です。
1階の親世帯にある浴室までは、スリッパを脱いで忍び足。(フローリングは音が響きますからね)。ようやく浴室に辿り着いても、気を使います。シャワーを遠慮がちに出し(もっと勢いよく浴びたい)、風呂桶をそっと床に置き(もっと豪快に置きたい)、歌も歌えず(?)、とにかくリラックスできないそうです。「一番イヤなのは、バスクリンが入っていること…」
なるほど。…まだあるそうです。
会社の決算期で、連日残業が続いたA子さん。帰宅は10時過ぎになっていました。毎朝玄関を掃除しているお姑さん(これもやめてほしい)から言われるのが「昨日遅かったのね。(息子の)ゴハンはどうしたの?」。
「佐藤のごはんでも食べたんじゃないですか!もう子供じゃないんですよっ!」と叫びたくなったとか。干渉されるのって、精神的に辛いですよね。
〈二世帯住宅の失敗のまとめ〉
・お風呂が共有…生活スタイルが違うので使うときに気兼ねする
・玄関が共有…外出や帰宅などがわかり、干渉されやすくなる
〈二世帯住宅の失敗2〉電気・水道・ガスのメーターが共有
お嫁さんも大変ですね~なんて思っていたら。「こっちもたまったもんじゃないわ!」とお姑さんからお怒りの声が。なるほど。お姑さんの言い分をうかがってみましょうか。
「息子の世帯はエアコンと床暖房をたくさん使うし、ウチが滅多に使わないインターネット回線も折半なんですよ。シャワーは出しっ放し、たまにエアコン付けっぱなしで出かけちゃったりして、光熱費がすごいんです。私と主人はロハスですから、これまでの光熱費はかわいいもんだったのに。これで折半なんて不公平じゃありません?」
そうなんですね。(A子さんは「親世帯は一日中家にいるから私たちが損してる」と言っていましたけど)
もしかして、電気、水道、ガスのメーターが一緒なんですか?
「そうです。リフォームのときにメーターを分けることも考えましたけど、工事代もかかりますからね」
あら。それはいけませんねぇ。
「お母さま、ここは私たちに親孝行をさせてください」
「何を言うのA子さん。親なんだからそれくらいさせてちょうだい」
お互いにこれくらいの大きな器がないと、光熱費を折半するのはむずかしいかもしれません。ちなみに光熱費だけでなく、固定資産税や補修費用ももめごとの原因になるようです。事前に負担率を話し合っておきたいものです。
〈二世帯住宅の失敗のまとめ〉
光熱費のメーターを一緒にしてしまった…使用料に差が不満の原因に
失敗しない二世帯住宅のポイントは水まわりと玄関
〈失敗しない二世帯住宅1〉キッチン・トイレ・お風呂は別がいい
二世帯住宅は”完全分離型に近いほど不満がなくなる”ということがわかっているそうです。
生活のリズムが違うと、お互いの生活音をわずらわしく感じます。たとえ生活リズムが同じでも、使うタイミングが重なってしまうとそれもストレスですしね。また浴室が共有だと「義両親の入浴中に歯磨きができない」というお嫁さんもいます。
こちらの二世帯住宅は、2階の子世帯に新たにキッチンと浴室を設けました。浴室は、庭に面した眺めのよい位置にレイアウト。せっかくなので窓を2つ設け、うつくしい緑の景色をたのしめるようにしています。
ちょうど階下は親世帯の浴室。1階の浴室の真上に設けたことによって、配管距離最低限にしています。配管には遮音材を巻くなどし、防音効果も万全。二世帯住宅の失敗談にありがちな生活音を抑えることができました。
浴室を分けられない場合は、せめて洗面室だけでも子世帯側につくるとよいでしょう。
〈失敗しない二世帯住宅2〉共有玄関でも独立させる
実は「玄関を別につくる」というのは、かなりの大工事。外階段を設け、玄関を設け…とコストがかかります。そこまでしなくていいけど、何かプライベートを確保する方法はないのか?
というわけで、こちらのお住まいは土間は共有、玄関ホールを親世帯と子世帯で分けることにしました。
靴を脱ぐときは背中合わせで、お互いが気にならないようにレイアウト。また、正面のLDK入り口ドアには半透明のガラスを採用。あらためて顔を合わせなくても、出入りするたびにお互いの気配を感じられるようになりました。
着かず、離れずでお互いの元気を確認する。完全分離型ではないけれど、心地よい距離感をキープできているそうです。
それでも二世帯住宅にするのは、メリットが大きいから
二世帯住宅にメリットがあるのは百も承知だと言うA子さん。それがあったから、夫の提案に賛成したのです。
・住宅購入費を節約できる
・生活費も節約できる
・ゴハンのお裾分けをもらえる
・孫が生まれたら面倒を見てもらえる(仕事を続けられる)
・何かあったら駆けつけることができる
では、二世帯住宅が相続税の軽減になることはご存知ですか?
「えっ。そんなの知りませんけど」
ではご説明しましょう。
2015年1月1日に相続税の基礎控除額が縮小されました。控除額は相続人の数で変わりますが、たとえば相続人が1人の場合。課税対象がこれまでの6000万円から3600万円まで引き下げられる。つまり、それまで「うちはたいした家じゃないから、相続税なんてないよ~」なんて安心していた人も、相続財産>基礎控除3600万円となると、立派な課税対象者に。東京都内の土地を相続する人の2人に1人は、相続税を支払うことになると言われています。
その救世主となるのが〈小規模宅地等の特例〉です。親と同居していた子が相続するなら、330㎡以内の土地に限り評価額が80%もカットされることに。相続税はゼロ、あるいはかなり軽減されることになるでしょう。
「へー。だったら一緒に住み続けたほうがお得かも…。2階にお風呂をつくろうかしら?」
まとめ
実は、A子さんのご主人さまにもこっそりお話を聞くチャンスがありました。
「気を使うのはお風呂かな。入浴時間が重なるとやっぱり大変。母親は僕に『先に入れ』って言うけど、なんだか妻に気を使って入りにくい。結局いつも僕が最後になる。しかも妻が『気が利かない』なんて言われちゃマズいから、風呂掃除もしてるしね…」
なるほど。マイペースそうなご主人さまですが、奥さまに協力してるんですね。
「やっぱり自分の都合で妻と親を引き合わせたワケだから、それなりに責任はある。そこをうまく立ち回れるかどうかだと思う、二世帯の夫の立場は。いろいろうまくいってて家庭内に笑顔が絶えないときは、やはり幸せ。そんな感じかな」
たとえ完全分離型の二世帯住宅でも、お互いギスギスしていれば不満が生まれます。最終的には、思いやり・やさしさ・気遣い。ここに、二世帯住宅の成功のカギがあるのではないでしょうか。
二世帯住宅のリフォームは、共有部分のほか、税金や光熱費の支払い分担など、細かな話し合いが必要です。まずはこちらから学んでみてください。
二世帯住宅のリフォーム craft